『水のかたち』 上巻/下巻 宮本輝 集英社 (2012/9/26)
『eclat(エクラ)』に2007年〜2012年に連載されたものに加筆・修正した作品です。
40代後半〜50代女性向けのファッション誌ということもあって、主人公は50歳の平凡な主婦。
閉店した喫茶店から譲り受けた茶碗をきっかけに、骨董の道に足を踏み入れ瞬く間にとある喫茶店のオーナーに抜擢されてしまう。
ただのお人好しではないが、存在自体が知らず知らずのうちに人に安らぎを与える、毒気を持たない女性。
平凡な奥様として、夫の仕事のサポートをし、子どもの食事の世話を日々くりかえし、掃除と洗濯が日課。
没頭する趣味ももたないまま、これで一生を終るんだと諦めるようにこれまでを振り返った時、自分の運の良さを改めて見つめ直しひとつの決断をする。
運の強い人、そうでない人。
運を活かせる人、そうでない人。
どちらも自分は前者であることを悟り、まわりのサポートも手伝って第二の人生を始めます。
他に登場する要人もおおむね人生の折り返し地点を過ぎた頃、すなわち50歳を前後して転機を迎えます。
出戻りの姉は居酒屋の女将となり、夫は脱サラして従兄の個人事業を引き継ぐ。
ジャズシンガーとしての才能を発揮して高い評判をよびはじめた旧知の友。
若い娘と再婚して56歳にして初めての子をもうける不動産屋の主人も登場。
主人公が喫茶店から譲り受けたもうひとつの骨董、朝鮮の手文庫からは、何やらいわくありげのリュックや手記が出てきて。。。
そちら方面の謎に迫っていくうちに、また人と人との不思議なつながりというものを描写していっています。
この作品はいつもより、登場人物が多かったです。
その人たちみんなが、自分の人生に意味をもって深く関わった人とのエピソードを語る中に、ズシズシと胸に響く教えを聞くことになります。
最後のページを迎え、このまま終わってしまうのか? と輝さんの物語はもっと続いて欲しいと欲が出てしまいます。
本書も例外でなく、おや?これからどう軌道にのっていくのかと気になります。
主人公が開いた喫茶店には、たくさんの喜・怒・哀・楽をかかえた人たちが集まってくるでしょうから。。。
障害物に鉢合わせた時、当たって砕けるのか、当たらないように避けるのかによってその後の展開が変わってくるのが常と思っていませんか。
水はどこをどうやって流れたとしても、その場その場のシチュエーションに合わせてそこを通り過ぎると、また元の水に戻るものです。
自然に逆らわずに身をゆだねてゆくと、心配するほどの大きな失敗にも遭うことはないんじゃないか、と勇気をもらえるオハナシでした。
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